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2017年12月22日金曜日

一人ウォーゲーム出版者になってしまった理由

(この記事はボードゲーマーのHA(Harpoon Arrow)氏が呼びかけた「War-Gamers Advent Calendar 2017」の12月22日分として執筆したものです)

 2017年は個人のアナログゲームレーベル「ジブセイルゲームズ」でゲームマーケットに自前のブースを構えて本格的な活動を始めた個人的には大きな転機の年となりました。このサポートブログではアナログゲームレーベルを個人で立ち上げることになった動機と経緯をまだ説明していなかったので、今回はそのお話しをしましょう。

 個人でゲームレーベルを立ち上げる動機とは、すなわち自分でアナログゲームを作ることになった理由でありますが、それを端的にいってしまうと

「ないから作った」

という一言に尽きてしまいます。

 ウォーゲームに限らずアナログゲームでもデジタルゲームでもプレイしているうちに「あああっ、ここはこうだったいいのにぃ」と思うことは少なくありません。幸いアナログゲームはローカルルールを取り入れたりユニットのレーティングを変更したり追加でユニットを自作したりと、個人でも改良がいたって簡単にできます。ジブセイルゲームズレーベルで最初の頒布物となった「モーレツ! 水雷戦隊!!」は、中黒靖さんがデザインした太平洋戦争の戦略級アナログウォーゲーム「太平洋戦史」に軽巡と駆逐艦を登場させたいがための追加キットとして自作したものです。

 太平洋戦史が登場した2014年当時、市場に流通していて購入しやすい日本語ルールブックが付属する太平洋戦争の戦略級ウォーゲームは太平洋戦史がほぼ唯一の存在でした(真珠湾強襲は残部少数の流通在庫状態だった)。話はわき道にそれますが、私は、2013年から「艦隊これくしょん」で日本海軍が登場するアナログウォーゲームに関心を持ち始めた、もしくは、関心をもちそうな仕事仲間を集めた宴会いや「業界横断リスク&リソースマネジメント研修会」なるものを定期的に開催してアナログウォーゲームの普及に務めていたのですが、その「研修」で初めての人に対してもルールの説明が容易であるとともに、当時執筆することが多かった「ねとらぼ」などで(無理矢理)紹介して興味を持った人が購入しやすい現役の製品として太平洋戦史は大変適していました。

 ただ、太平洋戦史はじきに完売となり購入が難しくなります(その後デラックス版やベーシック版の再販が何度もありましたが)。それとは別に、「ウォーゲームって聞いたことあるけれどやったことないから試してみたい」という人からは、「ウォーゲームってやっぱりヘクスでしょ」という要望を受けたりもしました。

 さらに「ぱんつぁー・ふぉー」(ガールズ&パンツァー公認ボードウォーゲーム)などをデザインしたボードゲーム個人レーベル「堀場工房」の主宰者である堀場亙さんのコンパクトな太平洋戦争戦略級アナログウォーゲーム「大東亜決戦」(非売品。「Pacific GO」の出発点となった作品)をゲームジャーナリストの徳岡正肇さんとともにテストプレイして「日本から前線までの補給路を輸送船ユニットを並べて表す」という着想を得たのも偶然ですがそのころでした。

・3時間程度で終わる
・ルールが複雑でない(=説明しやすい)
・ヘクスを使う
・太平洋戦争の補給を輸送船を「並べて」「重ねて」示す

 この条件を満たす太平洋戦争の戦略級アナログウォーゲームはありません。というわけで「ないから作った」……とすぐになったわけではありません。自分にはそれまでウォーゲームをイチからデザインした経験などありませんから、まさか自分にできるとは思っていなかったのです。ベースのアイデアを伝えて、興味を持ってもらえたら作ってもらおう、という“他力本願作戦”でした。

 さて、そのころウォーゲーム例会の飲み会で羽田智さん(中黒さんがテストプレイで最も信頼を寄せるウォーゲーマーの1人)と空母戦のウォーゲームについて話をする機会があったのですが、その席で私が「日本機動部隊とFLAT TOPの間を埋める製品がないのはどうしてでしょうね。なんで誰も作らないのかな」と疑問を呈したところ、羽田さんから「文句を言うなら自分で作りなさい」と諭された(自分としては怒られた)ことがありました。なるほど、デザイナーに文句を言う前に自分で汗をかきなさいということか。そう理解した自分は、そのときから空母戦ボードウォーゲームのデザインに着手します。で、同時に以前から他力本願で実現を目指していた戦略級太平洋戦争のデザインにも取り掛かったのでした。これが後の「“海運級”太平洋戦争」です。

 当初、そのゴールは「インクジェットプリンタで出力したマップとユニットを厚紙に貼って頒布。あとは購入者が自作でプレイ。10部程度の頒布を重ねて得たフィードバックによる改良で評価を得た上で専門誌の付録として売り込む」というステップを考えていました。しかし、インクジェットプリンタでマップとカウンターシートを印刷すると10セットも出力しないうちにインクが空になります。純正のインクを購入するとこれが結構高い。調べると印刷会社の小ロット印刷の方が安い。ということで、マップを30部刷ってカウンターシートはインクジェットプリンタ出力を厚紙に表裏手張りした状態のβ版を製作、agameさんのブースに委託して頒布しました。

 幸いにして完売したもののフィードバックが来ない。プレイされた形跡がないんですね。そこで、次に頒布した「RC版」ではこちらでカットしたユニットを用意しました……が、これがとても大変な作業で、厚紙の表裏にズレなくカウンターシートの印刷出力を張り合わせるだけでも神経をすり減らすのに、200個近いユニットを切り出す作業も大変です。そして、苦労して切り出したのに、精度は今ひとつ。これを購入した人にやらせるのは許されるのかと考えるようになりました。

 これもまた偶然なのですが、次のステップとなる「RTM版」の制作をしている最中に、個人向けの小ロット印刷でもカウンターシートを制作してくれる紙加工会社「盤上遊戯製作所」(BGM)に出会います(この会社との出会いが私にとって大きな転機となるのですが、それはまた別の機会に)。コストはそれなりにかかるのでいろいろ悩みましたが「個人でもメーカー製と同じようなカウンターシートが提供できる」ことの魅力には抗えませんでした。しかし、最小ロットは100部。これまで経験したことがない部数です。しかも売らないとコストが回収できません。いくら個人の趣味の世界とはいえ許容できない額の赤字です。

 そこで、agameさんの委託ではなく、自分でブースを構えることになったのです。それまでのインクジェットプリンタ出力の少部数制作とは比べ物にならない「プレッシャー」でした。ある意味「必死」です。ゲームマーケット公式ブログで宣伝もしました。幸いにして、中黒さんや堀場さんに“拡散”していただいたおかげもあって(SNSのインフルエンサーの影響力を自分の肌で感じたのもこのとき)、同時に頒布した「太平洋の土下座」と合わせてまさかの「初出展で完売」となりました(購入していただいた皆さん、本当にありがとうございました)。完売できたのもうれしかった(と同時に安堵した)ですが、購入した方からのフィードバックが数多くあったのが何よりうれしかったです。まさに、中黒さんがWar-Gamers Advent Calendar 2017の12月7日に投稿した「一人ウォーゲーム出版者になるということ」に言及していた「フィードバックが人を動かすのです」の実体験です。

 その後、太平洋の土下座のフィードバックとそのサポートで大変苦労もしましたが、これからも、「ないものを作る」活動を続けていくつもりです。いやほんとけっこうまじ。1つ作るとアイデアって湧いてくるものなんですね。あと、ないから作る、だけでなく、「こういうのあったらみんな欲しがるかも」なんてことも意識するようになりました。まさに「苦労以上に面白いから続けられているわけです」(中黒氏前述投稿より)ということで、一人でも多くの「ウォーゲーム出版者」がこれからも増えますように。みんなゲムマでブース出そうぜブース。私でも出せたんだから。

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